2012/05/30

大江戸線、若松河田、ポアン。<VFM Interview #01>


以前の記事で「伝えるチカラ」がある出店者、ということを書きました。新宿は若松河田(大江戸線)にあるポアンのオーナー佐々木昭彦さんはそう感じさせてくれる出店者のお一人です。醸し出す雰囲気に強い信念やスピリットを感じます。Vege&Forkが終わって数日後、お店にお邪魔してきました。ディナーをいただきながら、なんちゃってジャーナリスト(?)気取りで「インタビュー」をさせていただきました。笑いながら対応してくれた佐々木さん。オーガニックビールに始まり、ごまとごぼうの揚げ物、バーニャカウダー、ビオワイン、ベジハンバーグ(絶品!)、春巻き、玄米梅炒飯、などなど全て最高の味。本当においしかったです。Vege&Forkではランチプレートで出店。完売でした。早速佐々木さんにお聞きしたかったことを直撃インタビュー!


ポアン店主 マクロビオティック コンシェルジェ 佐々木昭彦さんインタビュー

「ポアンは私の原点、みんなの原点。」

〜こうなったら自分でやるしかないなと思った。〜


トッティ(以下、T):ポアンがお店を出すきっかけ、経緯ってどのようなものだったんでしょうか?なぜお店をやろうと思ったのでしょうか?

佐々木さん(以下、S):もともと飲食業界にいました。飲食の人間って自分のお店を出すのが夢っていうのが何となくあるじゃないですか。と言っても自分が飲食に入ったのって40代で、結構遅かったんです。一番最初は居酒屋のチェーンでした。「はい、よろこんで!」っていうところです(笑)。接客業のイロハを徹底的に叩き込まれました。そこは独立支援をしてくれるところで店長まで経験しました。入社して5年目くらいにマクロビオティックに出会い、職場に違和感を感じて6年目に退職し、その後は自然食系のお店を転々としていました。

T:なぜ、自然食系にシフトしていったのでしょうか?

S:マクロビオティックに出会ったからです。食べるものでカラダが作られていく、という考え方がまずとてもしっくりきた。最初は薬膳レストランで働いたり、マザーズグループで仕事をしていました。店長兼マクロビのお弁当開発、リマの分校の事務局などをやっていましたね。ですが、仕事に対する考え方で社長と喧嘩しちゃって(苦笑)。その後はリマの事務局の方に面倒を見ていただきました。その後、エコホリスティックという会社に入り、リトルママンなどで働いていました。そこでも楽しくやらせていただいてはいたんですが、どうも会社の体制などで折り合いがつかなくなっていくんですね。今度は逆に自然食系のレストランなどはサービスの質が悪くて。これは違うだろうと思う事も多く、とにかく上とやりあってしまう(笑)。で辞めてしまいました。他にも飲食店の立ち上げを手伝ったりしながら仕事をしていました。いい加減な会社も経験しましたし、不遇な扱いを受けたこともたくさんありましたね。その頃から「使われるのがいやだな。」って思いはじめたんです。(就職の)面接を受けたこともあったんですけれど、やっぱりしっくりこない。「こうなったら自分でやるしかないな。」と思って生命保険を解約し、銀行からも借り入れをしてポアンをオープンさせました。2009年のことです。ちょうど2年半くらいですね。



T:ポアンの名前の由来って何ですか?ポイント(Point)ですよね?

S:英語で言えば「点」ですが、「原点」という捉え方をしています。ここが私の原点。みんなの原点。迷いがあったらここへ来てもらえれば、という思いがあります。これは自分自身にも言い聞かせています。高い志があるにせよ、やっぱりお客様に何か言われたりすると気持ちが揺らいだりしてしまうこともあるんです。「これは間違っているんじゃないかな。」とか。だけどもそのときに「ここは(自分の)原点だから」とオープンしたときの最初の志を思い出すようにしているんです。気持ちがブレることはないんじゃないかって思えます。
もうひとつは冠詞の「a 」を付けると「a point 」で中庸(ちゅうよう/陽性陰性の真ん中)って意味もあるんです。フランス語ですよね。やわらかいイメージもあって。元デザイナーなんでロゴも自分で作りました。太陽の陽性と水の陰性、横にあるのは玄米です。(上図)

〜おいしくなければ続けられない。〜


T:どういうところにこだわってお店を続けているんですか?ここを大事にしているっていうところがあれば教えてください

S:食事は「おいしく、楽しくするところでしょう。」というのがあります。こだわりを押しつけるところではない。ウチは細部までこだわっています。メニューの後ろの方に色々と書いてはいますけど、気付いた方が読んでくれたらいい。マクロビとはうたってないんです。看板にも書いていません。敷居が高いと思われたくないんです。知らない人からすると「マクロビ?何それ?」というように特別な店だとは思われたくないんです。何よりもまずおいしくなければいけない。そしてリーズナブルであること。カラダによいこと。ボリュームもあること。おいしくなければ続けられない。続けられなければ健康になれないよね、っていう簡単な公式なんです。そこを大事にしています。自分も食べ歩きをしますが、不満を感じることもあります。「たしかに良い野菜を使ってるのはわかるけど、これっぽっちで2000円ってありえないよね?」って思う事が結構あります。そういう不満を自分の店に反映させるようにしています。


〜与えて、与えて、与えるといつかそれは自分に戻ってくる。〜


T:ポアンはレシピを公開しちゃうことで有名ですよね。何で教えてしまうんですか?普通は企業秘密とかありそうな気がするのですが。

S:一番ベースはマクロビオティックの考え方から来ています。目指すところは「世界平和」なんですけど、その前に「与える」ということがあるんです。人に与えて、与えて、与えると、いつかそれは自分に戻ってくるんです。話はちょっとそれますが、あの人は心が広いとか懐が深いとかよく言いますが、実はみんな一緒なんじゃないかと思うんです。じゃあ、何が違うかと言うと「人に与えてるか、そうでないか。」ということだと思うんです。与えている人はどんどん与えるので空っぽになります。だからどんどん新しい情報や愛情が入ってくる。そういう人が傍から見ると心が広い人とか懐が深い人に見えるんじゃないでしょうか。マクロビオティックで言うとそういう思いが一人一人に繋がっていって世界が平和になっていくんだと思うんですね。そういう考え方が基本にあるんです。だから情報公開するんです。レシピも公開します。教えてもらった誰かはまた別の誰かに教える。そうやって広がっていくんだと思っています。また誰かが「おいしい。」と言ってくれる。そうやってベジの輪が広がっていくんです。最後は自分のお店にお客さんが戻ってくる。だから教えてしまっていいんです。その間にまた新しいレシピを考えるんです。だから私は普通に聞かれても教えるし、料理教室でもどんどん教えます。

ここで絶品のベジハンバーグを食べながら佐々木さんから解説。



S:カシューナッツとくるみが両方入っています。うちはハンバーグが2種類あってこれは春夏バージョン。ベジミートは使っていません。つなぎは豆腐です。肉っぽい食感をどうしても出したかったので、ナッツ、根菜、雑穀など使い試行錯誤の末、完成させました。

T:おいしい!

S:ナッツが2種類、野菜が4種類、ごぼう、にんじん、たまねぎ、マッシュルームにタカキビを少し。ネチョっとさせるために玄米ご飯を使います。これで食感が良くなります。後はコクを出すために白ごまペーストを使っています。オリーブオイルと塩コショウ、ナツメグで味を整えています。

T:マクロビオティックやオーガニック業界で料理を提供することを仕事にしている佐々木さんから見て、お店として、また個人として、世の中に発信していきたいと思っていることや、考えていること、テーマはありますか?果たしたい使命とか。

S:お店をやることは目的ではないんです。この食を広げるところが目的です。やっぱり伝えるということの基地やネットワークになれればいいと思います。立地に関しても自宅が近いということもありますが、青山や渋谷、吉祥寺のようなベジのお店がたくさんあるところでやるつもりはないんです。既に需要がありますよね。誰も知らないようなところでやってこそ意味があると考えています。地元に密着してやっていこうかと。そして将来的には完全じゃなくても一駅にひとつ、ベジのお店ができるようになってベジの人口が増えればいいなと思っています。あるいは週に一回でも野菜中心の食事をする人が増えたらいいな、と。そのためには普段、肉を食べている方にもしっかり満足いただけるよな野菜料理を提供しなければいけないんです。それを目指しています。例えばカップルで来られても女性は満足そうなんですが、男性はいまいち満足していない(笑)。だからどうしても男性を満足させることができる料理が作りたくて。自分も男性なのでその気持ちはわかります。後はネットワークですよね。農家さんとお客様がつなかったり、お店同士や業者さん同士の横のつながり、大きなユニオンのようなものができたらおもしろいかなと思っています。最後に自分の使命についていいですか?

T:ぜひ、お聞きしたいところです。


〜生きているのではなく、生かされている。〜

S:先ほど言いましたが、自分は料理人なので農家さんとお客様をつなげたいと思っています。どうしてかというとこんな風に思うんです。自分は「生きているのではなく、生かされている。」と。だから野菜を料理しているのではなく、料理をさせていただいていると捉えるんです。意識の問題なんですが、そうすることで野菜は勝手においしくなってくれるんです。野菜に優しくできる。例えば野菜の立場で考えると攻撃的には切られたくないだろうな、とか考えるんです。だからスッと切ってあげよう、とか。ズッキーニひとつとっても「走りと名残」で切り方が変わる。加えて農家さんが愛情込めて、丹精込めて作った野菜のエネルギーをお客様にお教えしなければいけない。そのためには自分はそれ以上の愛情を持って提供しなければいけないと思っています。

T:食材には生命が宿っているという考え方はマクロビオティック特有のものなのでしょうか?例えばイタリアンやフレンチなど他の料理でもそのような意識はあるんでしょうか?

S:たぶん世界的にもあると思うんですが、特に日本は先ほど言ったように「生かされている」という考え方がまずあります。例えば「いただきます。(命をいただきます。)」にあるように日本は八百万の神なので、自然の、石ころひとつにも神様が宿っているんだよ、という考え方がありますよね。自然と共存し、自然に恩恵をいただく。あるいは自然を畏れながら共存してきたんですよね。伝えたいと思う事がたくさんあります。

T:そこに使命を感じているわけですね?

S:そうです。料理教室とかやっていますけど、本来、伝えることや教えることなんて大嫌いだったんですよ(笑)。なのに「伝えたい!」という気持ちがどんどん強くなっていくんです。

T:つまり、自分の中の哲学が確固たるものになったということですか?

S:今、日本が危ういからかも知れませんね。だから誰かが言わないといけないと思うんです。じゃあ伝えたからって誰もが理解するわけでないんですけどね。で最終的にはやっぱりこう思うわけです。月並みな表現ですけど。


T:ごちそうさまでした!ありがとうございました!

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強烈なアティテュードを感じました。職人気質を感じる佐々木さん。どちらかというと言葉よりも行動(料理、味)で語りかける方だと思います。心から丁寧に作られた料理。ぜひポアンに足を運び、佐々木さんの料理を堪能してみてください。佐々木さんの名刺には、SASAKI  "SALVATORE" AKIHIKOと書いてあります。案内人という意味だそうですが、「救世主」の意があるそうです。親しい方は「サルバ」と呼んでいるそうです。

「大変だと思いますが、毎月Vege&Fork開催してください(笑)。」とおっしゃってくださってうれしい限りです。そうです、よく言われます。できたらいいな(笑)。僕は僕でやるべきこと、やりたいことを具現化していきたいと思っています。

さて記事タイトルにVFM Interview #01と書いてしまいました。
そうです。続けていこうと思っています。

4回ほどイベントを開催すると、いつもお世話になるレギュラーのお店も多くいらっしゃいます。出店者の方たちの何かしらのSoulを感じたい主催者としては(笑)考え方やビジョンや想いなども知りたくなってくるところです。というわけで完全不定期ですが、今後インタビューをさせていただこうと思っています。つたないインタビューと編集ですが、どうぞよろしくお願いいたします!